2014年、ゲノム・コーポレーションの創設者である、高階麻巳と海洋太一は宇宙開発企業ガタカ・ジャパン株式会社の訓練生の同期生として知り合う。その年、衆議院選挙で自民党の惨敗により、自由未来党と緑の民が連立政権をとることになった。そのあおりで自民党を支持していた精華製薬からミツバ製薬へと宇宙開発省および関連企業の納品業者が変わることになった。そのため遺伝子による疾病発病確率チェックの方法が変わり、精華製薬方式ではパスしていた二人はミツバ製薬方式によるチェックにひっかかり“不適格者”となり宇宙への夢を断たれる。
一方環境汚染の悪化により地球外の宇宙に人類の生活の活路を見い出した2010年代、その開拓作業員として危険な作業を受け持つレプリカントが大量に製造され宇宙に送りだされた。そのレプリカントは人間との宇宙空間での長期の共同作業及び共同生活に耐えうるよう人間そっくりにモデリングされていた。しかし宇宙での開拓作業は困難を極め、資金的理由も有りいくつものプロジェクトが中止に追い込まれた。そのため多くのレプリカントが宇宙から開発途中で帰還させられたのであった。
ガタカ・ジャパン株式会社を辞めた、高階と海洋の二人は、新宿歌舞伎町の酒場『ゲノム』で毎日入り浸っていたが、そこは用済となったレプリカントたちの溜まり場でもあった。そこで、いわば落ちこぼれの宇宙飛行士二人とレプリカント7人が集まり株式会社ゲノム・コーポレーションが設立されたのであった。

会社の最初のビジネスは人件費の高騰と国からの援助の減少で行き詰まっていた老人介護ビジネスである。日本は高齢化社会のまっただ中であり、老人介護の需要があった。しかし大手企業は2004年に全国規模の老人介護会社が倒産した影響でどこも採算を考えてこの業界に進出してこなかった。高階は宇宙での作業に比べれば比較にならないほど楽な作業である老人介護にレプリカント達を働かせることを思い付いたのである。当時のレプリカントは宇宙での最前線の作業の能力もさる事ながら、人間との狭い宇宙ステーションでの生活を考慮して、モデリングは“1/f癒し”の論理を取り入れ過去に作られたような精悍なルックスのタイプは減っていっていた。高階と海洋はレプリカントの中でも老人受けするモデルのレプリカント7人と契約し老人介護ビジネスをスタートしたのであった。

このレプリカントによる老人介護ビジネスは成功を納める。一方、成功と同時に老人男性によるレプリカント・レイプが会社に報告されるようになる。当初老人の性欲を甘くみていたゲノム・コーポレーション側も相次ぐレプリカント・レイプ報告に頭を悩ませていたが、高階はこの老人の性欲に新たなビジネスを見い出し、レイプされたレプリカントを新橋の斉藤整形外科で美容整形させ、介護用とは別のセックス・ワーカー用のレプリカントとして特別料金で派遣するビジネスを始める。このサービスは人間と機械ということで売春防止法にひっかかることなく合法的売春組織を築くことになる。さらにゲノム・コーポレーションが大きな発展を迎えたのは2018 年、この年フランスの巨大企業の宇宙開発プロジェクトが経営危機に陥り、大量にリストラされたレプリカントが新東京に溢れた。彼ら、彼女たちと次から次へとゲノム・コーポレーションは契約を行い、斉藤整形外科ばかりでなく、需要と好みにあわせて、パリ、ハリウッドの一流整形外科医と業務提携を行い、合法的セックス・ワーカー・レプリカントを全国的組織としたのである。
レプリカントは元々過酷な宇宙で働くために作られたので少々のことでは文句も言わないし壊れなかった。2019年、ゲノム・コーポレーションはセックス・ワーカー用レプリカントを出演させる24時間連続ライヴショーをブロードバンド・インターネットでのストリーミングを始めたのである。24時間フル・ライヴというのがヴァーチャル世界に飽きていたユーザーを再びストリーミングに取り戻したのである。双方向での会話はもちろん、様々なインタラクティヴなアイディアが番組には詰め込まれていた。そしてゲノム・コーポレーションはストリーミングによりアイドル化したレプリカントと同じ顔をしたレプリカントを作り、それを今度はセックス・ワーカーとして働かせたのである。インタラクティヴを超えて、ベッドに本物のセクシー・アイドル・レプリカントが派遣されるビジネスは当然大成功を納める。

しかし、この成功がいつまでも続く保証はなかった、というのもそろそろ宇宙からの帰還レプリカントも少なくなってきたからである。しかもレプリカントの維持には整形費用の他、メンテナンスにコストがかかって今後レプリカントの老朽化が進むにつれその経費が増大することは容易に予想できた。
もともと高階と海洋は宇宙に行きたかったが自分の遺伝子のせいで夢をかなえることができなかったという負い目を持っていた。そのせいかいわゆる“不適格者”たちによって創設されたゲノム・コーポレーションが巨額の富みを得てからは、次々とゲノム・テクノロジー関係の企業を買収していった。そのゲノム技術を応用して、新しく開発したビジネスが脳に直接快楽信号を送ることだった。従来の性的快感はすべからく肉体の一部の摩擦によって生み出されていた。種の保存を使命とする生物のプログラムを解析し生殖と快楽の遺伝子的レベルにデータを送り人々を快楽に導く事ができれば、そのデータを人はこぞって求めるのは間違いなかった。しかもケミカル・ドラッグと違い中毒性は全くなかった。普通に性欲をコントロールできるだけの人間としてプログラムを備えていれば十分だったのである。さらにインポテンツ、不感症ということも快楽信号を直接脳に送るので問題なかった。要するに全ての人間がマーケットになる快楽ビジネスである。これが『I.K.U.プロジェクト』と名付けられ、次世代のゲノム・コーポレーションのビジネスの中核となるのである。

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